相続が発生したとき、財産は大きく分けると預貯金や有価証券といった「プラスの財産」と、借金や未納の税金のような「マイナスの財産」に分けられます。たとえプラスの財産を手に入れたとしても価値に応じた相続税や、それが不動産ならば固定資産税を納めなくてはならず、一定の負担は免れません。とはいえ、せっかく相続したのならばうまく活用して収入を得る手段にしたいものです。
この記事は、不動産における相続税の仕組みや相続税対策としての活用法を解説します。
目次
相続税はどう計算されるか

不動産を相続する際、「相続税」がどのくらいになるのかがとても気になることでしょう。ここでは、相続税の計算方法と知っておきたい用語について詳しく解説します。
相続税評価額と基礎控除額とは
相続税を計算する前に、その要素となる相続税評価額と基礎控除額について知っておく必要があります。相続する財産が不動産の場合、相続税評価額は不動産評価額を指し、これは相続税路線価または固定資産税評価額のいずれかを元に算出されます。
相続税路線価とは、相続税の算出に必要となる土地の価値を計算する基準の価格で、国税庁が毎年1回、時価の8割程度を目安に定めることとされています。他方で固定資産税評価額とは、市区町村が固定資産税を算出するために定めた3年に1回更新される土地や建物の価値です。相続税評価額は、このふたつのうちいずれかを使うこととされています。
基礎控除額とは「相続税評価額から差し引かれる金額」をいい、相続税額を下げる要素です。これを算出するには次の計算式を使います。
基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
この計算によれば法定相続人の数が多いほど基礎控除額が高くなることになり、つまるところ相続税評価額が低くなるわけです。
相続税の計算方法
相続税額を算出する元になるのは、相続税評価額から基礎控除額を差し引いた課税遺産総額です。
課税遺産総額=相続税評価額ー基礎控除額
例えば、相続税評価額8,000万円の相続財産を法定相続人5人で相続する場合を考えると、基礎控除額は3,000万円に600万円かける5人分の3,000万円を加えて計6,000万円になりますから、課税遺産総額は8,000万円から6,000万円を差し引いた2,000万円となります。
ここから相続税を求めるには、課税遺産総額のうち受け取る遺産額に応じた相続税率を掛け合わせ、そこからさらに控除額を差し引きます。
相続税=課税遺産総額×相続税率ー控除額
法定相続人の数は変わらないので、主に相続税を決めるのは相続税評価額だといってよいでしょう。
土地活用が相続税対策になる理由

現金1,000万円を相続した場合、相続税評価額はそのまま1,000万円となり、これをもとに相続税が算出されます。しかし相続が土地や建物である場合、次のような相続税の節税対策に利用可能です。
不動産賃貸で評価額を下げる
建物は第三者に貸すことで、借家権割合によって相続税評価額を下げられます。借家権割合とは他人に貸している建物を評価するための減価率で、相続税評価額の最大30%まで減額が可能となるものです。
また、現金を不動産(土地)に変えて相続し、この土地を賃貸にすることで貸家建付地にすれば借地権割合として30〜90%が減額できます。現金のままだと相続税評価額が下がらないことを考えれば、不動産として活用するのは節税対策として非常に有効であるといえるでしょう。
小規模住宅の特例でさらに節税
もしも住居や店舗として利用していた宅地を相続したならば、小規模宅地等の特例を利用すると最大8割まで評価額を下げられます。
特例の対象となる宅地は、居住用宅地、事業用宅地、貸付事業用宅地の3種類で、相続人の被相続人との関係など適用条件も明確に定められていますが、居住用宅地の場合は330平方メートルまで80%、事業用宅地は400平方メートルまで80%、貸付事業用地は200平方メートルまで50%がそれぞれ減額されます。
借入金で控除額が増える
上記の不動産活用法では、建築費用などの資金調達に住宅ローンを利用するのが一般的です。このとき発生する借入金はマイナス資産として課税遺産に含まれるため、課税遺産額を減額できます。
例えば現金2,000万円を持っている状態で9,000万円を借り入れ、相続税評価額4,000万円の物件を建てると3,000万円分の大きな相続税対策効果を得ることができるのです。ただし、借り入れの際は継続した返済リスクに注意する必要があります。節税対策とはいえ、ここまでするかどうかは慎重に検討すべきでしょう。
土地活用によるおすすめの相続税対策

ここからは、相続税の節税対策としておすすめできる土地活用法を紹介します。
賃貸アパート
土地の上にアパートを建てれば土地と建物の評価額を下げられます。立地条件や建物のクオリティにもよりますが、常時満室であれば長期にわたって安定した収入を得られるメリットの高い活用法です。
ただし、相続が発生したときに相続人が実際に賃貸アパート経営をしておく必要があります。アパート経営は個数が少ないほど空き室リスクが高く、入居者の募集や管理を委託するコスト、修繕対策など考えなくてはならないことも多いので、初心者が始めるにはそれなりの知識や勉強が必要です。
高齢者施設
ここでいう高齢者施設とは、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅をいいます。賃貸アパートと同様に土地の上に建物を建てて活用することで相続税評価額を下げることができますが、介護という特殊な事業であるため介護サービス事業者と共同で経営しなくてはならないことや、比較的大規模な土地と建物が必要になるため投資金額が高額となることには注意が必要です。
太陽光発電施設
土地の上に太陽光発電システムを設置し、作り出した電力を買い取ってもらうことで収入を得るのが太陽光発電による節税対策です。設備の初期投資やメンテナンスの費用はかかりますが、相続の場合は設備の減価償却費を差し引いた額が評価額となり、土地は相続税路線価で評価されるので、時価の80%程度となることで節税効果が期待できます。とはいうものの、ほかの活用法に比べると収益性はあまり期待できません。
相続税対策としての土地活用における注意点

相続税の節税対策として土地を活用する方法は実にさまざまです。さまざまあるなかで、どの活用法にも共通する注意点について知っておく必要があるでしょう。
節税だけにとらわれない
相続税の節税対策として土地を活用するのは確かにいい方法かもしれませんが、節税効果が高ければ高いほどよいかというとそうとも言い切れません。土地活用はあくまで「運用」であり「経営」なのです。必要とされる資金があり、やらなくてはならないことをやって初めて成り立ちます。
どう活用するにせよ、相応の義務や負担があるものです。コストを払わずして大きなリターンは得られないという原則を念頭に置き、節税効果だけでなく義務や負担とのバランスを現実的に捉えて広い視野で活用法を検討するとよいでしょう。
二次相続までは考慮する
配偶者が相続したほうが節税できるからといって、相続分を大きくするのは将来の「二次相続」においてリスクが上がります。二次相続とは、配偶者が被相続人、子が相続人となる相続です。最初の相続(一次相続)による土地活用で大きな利益が得られるのは確かに喜ばしいことですが、相続評価額はその後の資産の合計となり、高額になることが考えられます。
二次相続では法定相続人の数も少なくなるので基礎控除額も当然少なくなり、高い相続税を納めなくてはなりません。一次相続においてうまく節税して相続するのを狙うのもよいですが、次に起こるはずの二次相続も考慮して活用方法を選ぶ必要があるでしょう。
次代への相続にも注意
今回の相続で適切な活用法を採用し、相続税をうまく節税できたとします。しかし、その後にうまく活用すればするほど資金が蓄積される、つまり次代の相続税評価額が上がるということになります。一部では「収益性の高い活用法は相続税の節税対策として意味がない」という見方もあるようですが、実際に相続する立場になれば収益性の低い資産を残されても苦労するのが目に見えています。 収益性の高い資産は、たとえ相続税評価額が増えたとしてもその後の安定収入として将来にわたって有意義なものです。節税だけにとらわれることなく、次代の将来も考えた活用法を選ぶようにしましょう。
土地活用で上手に相続税対策しよう

相続は誰にも必ず起こり得ることですが、だからこそ早くから現実的にどう相続するかをよく考えておく必要があります。そのためには相続税の計算方法や計算要素を正しく理解し、相続税評価額を下げる方法を知ることが重要です。
活用法は賃貸アパートや太陽光発電施設の経営など多々ありますが、どれを選ぶにしても節税だけにとらわれず、また収益性だけにとらわれずに長期にわたって現実的な方法を選びたいものです。それは将来の相続人に対する責任であり、思いやりともいえるでしょう。
相続税対策としての土地活用を考えている方は、ぜひ弊社にお気軽にご相談ください。あなたに合わせてより良い方法を検討、提案いたします。