実家の相続、売るか貸すか決められない|4択比較と決め方の順番(大田区・共有戸建事例)

相続した実家の出口比較

この記事で分かること

売る・貸す・残す・解体する前に、家族・管理・資金の論点を整理します。 本文では前提・選択肢・確認順序を、断定せずに分けて説明します。

先に結論と確認順序

このモデルケースは、4方向の優劣より「何を確認すれば決められるか」を比較します

登場人物と物件は仮想です。本文の金額と期間は記載した条件に基づく検討用の想定で、現在の査定額、税額、賃料、工事費を示すものではありません。

置いている前提

  • 相続登記済み・きょうだい3名共有
  • 築年・面積・維持費は本文記載のモデル値
  • 売却・賃貸・保有・解体の4方向を比較

個別案件では未確認

  • 登記、境界、接道、建物劣化、残置物
  • 税特例の適用、取得費、実際の税額
  • 現在の売却価格、賃料、改修・解体見積
方向向く条件主な懸念先に確認すること
現況で売る管理負担を終えたい家族感情、売却条件査定条件、税務、残置物
改修して貸す保有を続け、管理できる改修、空室、将来売却賃料、見積、管理体制
期限を決めて残す再判断日と担当が決まる劣化、費用、先送り年間負担、点検、期限
解体後に売る建物が流通・安全の障害先行費用、税負担解体見積、売却条件、税務

このモデルから持ち帰る確認順序

  1. 権利・期限を確認する。
  2. 現況と費用を確認する。
  3. 4方向を同じ条件で比較する。
  4. 結論ではなく再確認日まで合意する。

市場数値はモデル作成時の参考情報で、公開ページだけでは再現できない業者間データを含みます。個別物件では公的取引情報、現地・資料、専門家確認を組み合わせてください。

「売ったほうがいいのは、たぶん分かっているんです。ただ、父が建てた家なので」

相続した実家の相談で、いちばん多く聞く言葉かもしれません。誰かと揉めているわけではない。お金に困っているわけでもない。それなのに、1年、2年と決まらない。

今回紹介するのは、東京都大田区に実家の戸建を持つ、岡田誠さん(仮名・50代)ときょうだい3人の事例です。このページに登場する人物・物件は架空です。市場数値はモデル作成時の参考値であり、現在の査定額・賃料・費用を示しません。

相続した実家の戸建をどうするか、きょうだい3人で考える判断整理のイメージ(東京都大田区・モデルケース)

相続登記は済んだ。なのに、そこから動けない

岡田さんのお父様が亡くなったのは約1年半前。実家は東京都大田区の木造2階建、築47年。土地は約100㎡で、南側の公道に面した整形地です。

相続登記は今年の春に済ませました。長男の誠さん、妹の高橋恵美さん(仮名)、弟の岡田隆さん(仮名・大阪在住)の3人で、持分3分の1ずつの共有です。

ここまでは、順調でした。問題はそこからです。

誠さんは「父が建てた家だから、貸せるなら残したい」。恵美さんは「傷む前に早く売って、現金で分けたい」。隆さんは「兄さんに任せる。ただ、損はしたくない」。

誰も間違ったことを言っていません。意見が少しずつ違うだけです。お盆と正月に2回話し合いましたが、どちらも結論が出ないまま流れました。

現状維持のコスト——「大した金額ではない」が続く重さ

空き家になった実家の毎月の収支を数字にすると、こうなります。固定資産税・都市計画税が年約15万円。火災保険が年約2万円。水道と電気の基本料が年約4万円。庭木の剪定や見回りの交通費などが年約4万円。合計で年約25万円、月に直すと約2万円の持ち出しです(想定)。

3人で割れば1人あたり年約8万円。「払えない金額ではない」——だから決断が先送りできてしまう、とも言えます。

ただ、実際の負担はお金だけではありません。庭木の手入れは近くに住む恵美さんに、月1回の見回りは誠さんに偏っています。そして2階の和室には、雨染みの跡が出はじめていました。

空き家の実家にかかる年間約25万円の保有コスト(固定資産税・保険・管理費用)のイメージ

この案件特有の壁——「こじれていない共有」ほど、決まらない

共有名義のトラブルというと、連絡が取れない共有者や、意見の対立を思い浮かべる方が多いと思います。実はその逆、関係が良好な共有ほど「決まらない」ことがあります

理由は単純で、誰かが強く主張すれば決まるけれど、誰も関係を壊してまで主張したくないからです。売却も賃貸も共有者全員の同意が必要です。3人の関係が良いことは大きな財産ですが、「決める仕組み」がなければ、良好な関係はそのまま先送りの理由になります。

そしてもうひとつ、この案件には見えにくい期限がありました。税金の特例です。

この実家は1979年築——昭和56年5月以前の建築で、お父様が一人で暮らしていました。この条件は、売却時に譲渡所得から控除を受けられる「空き家特例(3,000万円特別控除)」の対象になり得ます(適用可否は税理士確認が必要です)。この特例には期限があり、相続開始から3年目の年末まで。この事例では2028年12月末(想定)です。相続人が3人の場合、控除額は1人あたり2,000万円になります。

大田区の実取引データ——「待つ理由」は見つからなかった

この物件の土地面積帯(80〜130㎡)について、大田区の直近2年の実成約データ(REINS)を整理しました。

更地・土地の成約は159件。㎡単価の中央値は約74万円、駅徒歩12分以上に絞ると約66万円です。ここから、この実家は更地なら6,600万〜8,000万円(中心目線で約7,000万円・想定)、古家付きの現況のままなら6,300万〜7,500万円(想定)が実務的な目線になります。

築35年以上の中古戸建の成約は17件ありましたが、価格は2,000万円台から9,000万円台まで大きく割れています。駅からの距離や再建築の可否など条件次第で、古家付きの評価は二極化する——これがデータの示す現実です。

もうひとつ分かったことがあります。直近半年の成約単価は上昇局面にあり、少なくとも「もっと待てば高くなるとは言えないが、下がるのを待つべきでもない」状態でした。「タイミングを待つ」ことは、この案件では判断の理由になりません。

東京都大田区の土地成約データ(80〜130平米・直近2年・159件)の分布イメージ

関係者それぞれの気持ち

数字を並べる前に、3人の気持ちを整理しておきます。判断の構造は、ここにあるからです。

誠さん(長男)。「売ったほうがいいのは分かっている。ただ、父が建てた家を自分の代で終わらせるのか、という気持ちがある」。毎月の見回りのたびに、庭の手入れをした父の姿を思い出すそうです。

恵美さん(妹)。「思い出は私にもある。でも、傷んでいく家を見るほうがつらい。子どもの教育費もあるから、正直、早く現金で分けたい」。庭木の手入れを担当しているぶん、傷みの進行をいちばん近くで見ています。

隆さん(弟・大阪)。「遠くにいて何もできないから、兄さんに任せる。ただ、あとから『損をした』とは思いたくない」。帰京は年に1〜2回。話し合いにいつも参加できるわけではありません。

誰の気持ちも、否定できるものではありません。だからこそ、気持ちのぶつけ合いではなく、同じ紙の上で数字を見る形に変える必要がありました。

きょうだい3人が同じ資料を見ながら実家の方針を話し合う家族会議のイメージ

4つの方向性——売る・貸す・残す・解体する

整理レポートでは、4つの出口を同じ物差しに載せました。

方向性① 売る——古家付きのまま現況で売却(想定3〜6ヶ月)

解体せず「古家付き土地」として売る方法です。想定売却額は約6,700万円。仲介手数料や測量、残置物の処分で約350万円の費用がかかります。ポイントは税金で、空き家特例が使えるかどうかで手取りが大きく変わります(後述)。

方向性② 貸す——約550万円改修して戸建賃貸に(想定4〜6ヶ月)

水回りと内装を改修して貸す方法です。大田区の戸建賃貸は募集が44件と薄く、需要はあります。想定賃料は月16〜20万円。年間の手残りは約157万円(1人約52万円)で、改修費の回収に約3.5年。資産価値約7,000万円に対する利回りは2%台前半です。数字は小さいものの、「父の家を残しながら負担を収入に変える」選択肢として破綻はしていません。ただし、入居中は売りにくくなります。

方向性③ 残す——期限を決めて、今は動かない(再判断まで)

現状維持です。ただし「なんとなくの先送り」ではなく、いつ・何が分かったら決めるかを先に決めたうえで残します。実費は年約25万円ですが、特例の期限を過ぎてから売ると、税負担が3人合計で1,200万円規模増え得ます(想定)。「残す」は無料ではなく、この金額が時間の価格になります。

方向性④ 解体する——更地にして売却(想定4〜8ヶ月)

約250万円で解体し、更地として売る方法です。買主層は広がりますが、手取りは①とほぼ同水準。解体だけして売らない場合は、住宅用地の特例が外れて固定資産税が年40〜50万円規模(想定)に増えるため、「とりあえず解体」は選びにくい構造です。

手取りの比較——最大の差は「①と④の間」ではなかった

4つの出口で、最終的に手元にいくら残るかの概算です(すべて想定・税は税理士確認要)。

①古家付きで売却(特例適用): 手取り約6,270万円(1人約2,090万円)。④解体して更地売却(特例適用): 約6,330万円。——①と④の差は、実はわずかです。

一方、①で特例が使えなかった場合の手取りは約5,060万円。適用できた場合との差は3人合計で約1,200万円にのぼります。1979年の新築時の書類が見つからないと取得費が売却額の5%でしか計算できず、譲渡益が大きく出てしまうためです。

つまりこの案件で最大の分かれ目は、「売るか解体するか」ではなく、「特例が使えるか、その期限に間に合うか」でした。

売る・貸す・残す・解体するの4つの選択肢を手取り額と負担で比較した表のイメージ

推奨——「今は決めない。ただし、決め方と期限を決める」

この事例で比較的合っているのは、「期限を決めて残しながら、判断を左右する3つの数字(特例の可否・賃料の実勢・費用の実額)を1〜2ヶ月で揃え、2027年中に『売る』か『貸す』かを決める」という進め方でした。特例の期限から逆算すると、今月決める必要はありません。ただし、いつまでも決めなくていいわけでもありません。

この進め方の利点は、誰の気持ちも否定しないことです。誠さんの「残したい」は、賃料査定と改修見積で正面から検討される。恵美さんの「早く売りたい」には、「2027年中に決める」という期限で応える。隆さんには、決め方そのものへの同意を先に取り、オンラインで参加できる設計にする。

感情の議論を、数字の議論に変える。それだけで、2回流れた話し合いは「決められる会議」に変わります。

直近アクション——今週できること

  • 税理士に空き家特例の適用可否と概算税額を確認する(電話1本から。整理レポートを持参すると話が早い)
  • 実家で新築時の契約書・領収書を探す(見つかれば税の計算が大きく変わり得る)
  • きょうだいで「2027年中に決める」ことだけ、先に合意する(何に決めるかは、まだ決めなくていい)

「分からないから決められない」の正体

岡田さんたちが1年半動けなかったのは、意見が割れていたからではありません。比べる物差しと、決める期限がなかったからです。

特例が使えるのか。貸したら実際いくらになるのか。解体にいくらかかるのか。——ひとつずつは、電話1本や無料の見積で確認できることばかりです。それが揃った紙が1枚あれば、あとは家族の話し合いに戻れます。

不動産のことを、一度考えなくていい状態にする。そのために必要なのは、決断そのものではなく、決められる状態を先に作ることなのだと思います。

特例の期限から逆算した実家整理のロードマップと次の一歩のイメージ

本コラムは、実際に多く寄せられるご相談をもとに構成したモデルケース(仮想事例)です。このページに登場する人物・物件は架空です。市場数値はモデル作成時の参考値であり、現在の査定額・賃料・費用を示しません。法的・税務的な判断は個別の状況によって異なります。具体的なご相談は、専門家またはDecision Baseへお問い合わせください。

資料を読む

本コラムの元となったレポートとスライド資料を別ページでご覧いただけます。

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