「親の家」を放置する、本当のコスト

親の家をどうするか。この問いにすぐ答えられる人は、多くありません。思い出があり、家族の歴史があり、簡単に割り切れる問題ではないからです。
そのため、多くの方が「ひとまずこのままにしておこう」と考えます。急いで売る必要も感じていない。家族ともまだ十分に話せていない。そうした状態は、ごく自然なことです。
ただ、不動産は時間が止まるものではありません。何も決めないまま置いておくことで、建物の状態、維持費用、そして管理の負担が少しずつ積み重なっていくことがあります。

親の家は、答えを急ぎにくい問題

相続した家についてお話をうかがうと、よく似た言葉が出てきます。

・まだ決めなくてもいい
・家族ときちんと話し合えていない
・今すぐ困っているわけではない

どれも、無理のない気持ちです。親が暮らしていた家には、単なる建物以上の意味があります。そこで過ごした時間や、家族との記憶が重なっているからです。

しかも不動産は、一度方向を決めると簡単に元へ戻せるものではありません。残すにしても、活用するにしても、手放すにしても、ある程度の準備と覚悟が必要です。だからこそ、すぐに結論を出すより、少し時間を置いて様子を見ようとするのは自然な反応です。

その姿勢自体が悪いわけではありません。ただ、不動産には「そのまま」の状態を長く維持しにくいという、仕組み上の特徴があります。

放置のコストは、見えない形で積み重なる

家は、人が住まなくなると傷みやすくなります。換気がされない、水が流れない、手入れが行き届かない。こうした状態が続くことで湿気がこもり、カビが発生し、木部の傷みが進みます。さらに、配管まわりの不具合も起こりやすくなります。

人が住んでいる家であれば、小さな異変に気づくことができます。雨漏りの気配、床のきしみ、外壁のひび、伸びすぎた庭木も、日常の中で早めに発見できます。しかし空き家になると、そうした小さな変化が見えにくくなります。結果として、後から確認したときには、補修の範囲が大きくなっていることも少なくありません。

修繕費用は建物の状態によって幅がありますが、屋根や外壁の補修だけでも数十万円から百万円を超えることがあります。放置が長引くほど、「少し直せば済んだ問題」が「まとまった費用が必要な問題」へと変わっていきます。

さらに、使っていなくても税金は止まりません。固定資産税は毎年発生し、地域によっては都市計画税も加わります。また、管理が不十分な空き家に対して自治体から勧告を受けると、土地の固定資産税に適用されている住宅用地特例が解除される場合があります。通常、住宅用地の課税標準は最大で6分の1まで軽減される仕組みになっていますが、その前提が外れると、税負担は大きく変わります。

使っていなくても、管理の責任は残る

もう一つ忘れてはならないのが、空き家であっても所有者としての責任は消えないという点です。

民法717条では、土地の工作物の設置や保存に問題があり、それによって他人に損害が生じた場合、占有者や所有者が責任を負うことが定められています。塀の倒壊、屋根材の落下、老朽化した部材の飛散などは、空き家で特に起こりやすいトラブルです。

実際の現場では、費用の問題だけでなく、近隣との関係がじわじわと心理的な負担になることもあります。草木が隣の敷地へ越境して連絡が来る。雨どいの破損を指摘される。台風の後に様子を見に行かなければならない。こうしたことが起きるたびに「そろそろ何とかしないといけない」と感じながらも、方向が定まらないまま時間だけが過ぎていく。そんなケースは珍しくありません。

本当の負担は、持っていることより整理できていないこと

ここまで読むと、不動産を所有すること自体が問題のように感じるかもしれません。しかし、必ずしもそうではありません。

本当に負担になりやすいのは、「これからどうしていくか」が整理されていない状態です。

・誰が管理するのか
・毎年どれくらいの費用がかかっているのか
・今後、住む予定はあるのか
・家族の意向はどこまで共有できているのか

こうした判断の材料が曖昧なままだと、不動産はいつまでも「気になる存在」であり続けます。反対に、状況が把握できていて、役割や方向性がある程度定まっていれば、持ち続けるとしても負担は大きく軽減できます。

大切なのは、売るか残すかを急いで決めることではありません。まず現状をきちんと把握することです。建物の状態、維持費、管理の手間、家族それぞれの考え方を一つずつ整理していく。その積み重ねが、落ち着いて判断するための土台になります。

不動産を「考え続けなくていい状態」へ

不動産の問題は、急いで答えを出すものではありません。

状況を落ち着いて見ていくこと。判断の材料を一つずつ整えていくこと。

そうすることで、不動産は「どうすればいいか分からない問題」ではなくなっていきます。少しずつ、ずっと気にかけ続けなければならない状態から抜け出していくことができます。

そのためにも、不動産の問題がどのように生まれ、どう大きくなっていくのかを、落ち着いて理解しておくことが助けになります。

不動産の問題は、ある日突然大きくなるわけではありません。だからこそ、早めに向き合うことが、結果として一番の近道になります。


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